今日は第2回『痛み・しびれ』を考える会に参加してきました。
本会は釧路労災病院の井須豊彦先生主催の勉強会。
先日母校の専門学校を訪れたさい恩師から紹介していただいたのですが、これがとても刺激的で勉強になる講演ばかりでとても有意義な時間を過ごさせていただきました。
まずは札幌麻生脳神経外科の矢野俊介先生による『脊髄刺激療法~難治性神経障害性疼痛に対する低侵襲外科治療~』。
脊髄刺激療法は、脊髄後索に電極を埋め込み微弱電流を流すことで触圧覚刺激を起こし、神経障害性疼痛を減弱させる治療法です。
直接痛みの原因を取り除くのではなく、触圧覚刺激によって痛みを脳に伝わりにくくする治療法ということですね。
「触圧覚刺激による疼痛の減弱」という機序は、鍼灸がなぜ痛みのコントロールに有効なのかを説明するときにも使われるゲートコントロールセオリーに求められていました。
子どものころ頭をぶつけたときにお母さんになでられると、痛みが多少やわらぐように感じたことはありませんか?
簡単にいえばゲートコントロールセオリーはこの現象を説明してくれるものです。
痛みを伝える神経線維よりも触圧覚を伝える神経線維の方が優先して脳に伝えられるということ。
鍼灸をすることで痛みが和らぐのも、この機序が関わっていると考えられています。
いままでの手術と比べると侵襲性が低く、効果があるかないかを確かめる試験刺激ができることから患者さんへの負担が少ないのが特徴とのこと。
難治性の神経性疼痛を抱えている方の選択肢のひとつとして、もう少し知られてもよい治療法のように感じました。
また、最後の井須豊彦先生による『古くて新しい腰痛―手を当てる医療を目指して―』は、腰痛の原因の中に潜む上殿皮神経障害の可能性についてのご講演でした。
井須先生は、釧路での勤務時代に何度も同意書を書いていただいたことがある鍼灸にもとても理解のある先生です。
腰痛は原因疾患が特定される特異的腰痛と原因がわからない非特異的腰痛の2者に分類されますが、なんと原因のわからない腰痛は85%にも上ります。
現在は、そのほとんどが心因性とされてしまいがちですが、井須先生はその中に脊髄周辺、もしくは末梢神経周辺の病変が隠れているのではないかと警鐘を鳴らされています。
作家の夏樹静子さんもその著書で紹介しているように、心因性の腰痛は最近注目されるようになってきました。
私も本書は読みましたし、心因性の腰痛は可能性として見逃すことのできない重要な存在だと感じていますが、85%も占める非特異的腰痛の大半がこれに分類されてしまうことにはやはり違和感を持ちます。
井須先生によると、腸骨陵(ベルトをするとその下にくるお尻の骨の上端)周辺や腸骨陵上外側7センチくらいのところを押すと著名な圧痛を呈するのが上殿皮神経障害の特徴とのこと。
井須先生のところに来る腰痛患者のなんと40%もの方がこれに該当するのだとおっしゃっていました。
治療法としては鍼灸やストレッチ、温泉療法などで患部の血行を良くする保存的治療を行い、それでも良くならない場合は手術で上殿皮神経剥離術を行うとのこと。
40%という数字には会場のドクターの皆さんからも様々な意見が出ていましたが、腰痛の原因のひとつとして念頭に置かなくてはいけないことは確かに思えました。
いずれにしても患部の血行を良くし痛みのコントロールに有効な治療法のひとつとして鍼灸もお役に立てる場面が少なくないと再確認させていただきました。
急性腰痛だけではなく、慢性的な痛みやしびれをお持ちの方は鍼灸という選択肢をぜひご検討いただければと思います。